注釈:本チャプター前半部は、チャプター13/渇きし男ー焦燥と滾りーから展開する、相和会会長相馬豹一の実子、定男の飛び降り自殺を受けてのエピソードを描いた別バージョンになります。本作『NGなきワル』の終盤部、及び『ヒート・フルーツ』全編版第3部後半では、その存在が無視できない側面である、関東広域直系・田代組二代目組長の田代と東龍会トップ坂内の盟友関係を綴ったパーツが捨てがたかったため、本チャプター”デッド・オーダー”のエピソードにアレンジしてアップすることにしました。ついては、チャプター11と時系列、ストーリーの一部に不一致するシーンが含まれます。何卒、ご了抱く諾いただければ幸いです。




その1


この年は桜の季節が去ると、一気に夏のような暑さが日本列島を覆っていた。
そして”彼らの業界”ともう一方の”彼らの界隈”に、”その出来事”が周知される。
それは、5月の大型連休が明けてすぐのことだった…。


...


坂内:おう…、突然すまんが、今いいか?

田代:ああ、そろそろそっちから電話が来る頃だと思ってたとこだからな(苦笑)。

坂内:じゃあ、もう耳に入ったか。”嬉しい”訃報が…(薄笑)。

田代:フフ‥、どうやらガセじゃあないようだな。ヌカ喜びはごめんだったからよう、そっちと”今後の展望”を語るのは、よく確かめてからにしようとな。でよう、それ…、確かってことでいいんだな?

坂内:間違いない。例のD病院の屋上からダイビングってことさ。

田代:やはりそうなのか…。D病院となると…、どっかのカチコミで傷を負ったとかってことになりそうだな。だが、自殺の動機は既に諸説出回ってるぞ…。

坂内:まあ、今の段階では動機よりも、あのバカ殿がお陀仏になったって事実が肝心だ。…関東だけでなく関西でもこの”吉報”を受けて、さっそくワイワイガヤガヤだろうからな。
田代:うむ…。あのうつけ息子が2代目に就いてもらった方が、我々側には好都合だったとも捉えられるが、こうとなったら、相馬亡きあとの跡目争いが再燃するのは間違いないだろうし…。少なくとも、それはこっちにとって好材料に持って行ける。

...


坂内:そうだ。しかも”この時期”ってのは、なかなか美味しいぜ、相棒(笑)。

田代:それは相馬の体調ってことか?

坂内:フフフ…、去年あたりから入退院を繰り返してるのは事実のようだし、かなり病状は深刻と見ていいだろうよ。仮に余命数年ってことならだ…、相和会内部だって従来以上の跡目を巡った水面下での綱引きは必然だぜ。

田代:ああ、そうだな。当然今回も武闘派を引っ張る矢島と、組の財政面を一手で支える経済通、建田両派の攻防ってことになるだろうしよう…。


ー関東の直系有力親分二人は、黒電話越しに、ほくそ笑みあうのだったー