その4



大打ノボルは御手洗を残し、5月の中旬に横浜へ帰還した。

以降、東京北部の進駐地にはローテーション配置を敷き、上京した際のタカハシには、極力都県境に出向かせることとした。

”あそこの状況は生の情報が欲しい。それも精度の高い…。やはりここは、タカハシのメンタルで拾い上げたもらいたい。他のヤツではかえって誤情報になる恐れがあるからな。あそこは早くも動きが出てるそうだしな…”

そして梅雨の時期を迎えた6月…。

...


「ノボルさん、2番、坂内の親分からっす」

その日はマキオが事務所番だった。

”坂内さん、何か新たな情報だろうか…”

ノボルが横浜に戻ってから、東龍会の坂内からは週に一度は直で電話が入っいた。
それは、特段重要用件がなくともだった…。

...


「おお、ノボル。さっそくだが、あっちで動きがあった」

「そうですか!で…、一体何が起きましたか?」

ノボルは受話器に向かってせっつくようだった。

「例の娘、相馬の後押しで”表舞台”に出たようだと伝えたが、いきなりやってくれたようだ」

例の娘…!
それこそ、相馬豹一の息子であった相馬定男の局部を切りつけ、自殺に追い込んだ今年の春高校に進学したばかりの女子高生…。
その女子高生こそ、相馬の遠縁の娘だったという…。

「それでな…」

「…ええー!それ、本当なんっすか、坂内さん⁉」

「ああ、確かな情報だ。」

”何ということだ!その小娘があの砂垣順二を放逐したと…⁉相馬さんは、自分の息子を間接的に死に追いやった小娘を血の繋がった遠縁の娘としてバックに着いて、こうも早く星流会の連れガキであった砂垣を突っ返したのか…”

...


「ウチの現地進駐にもリサーチはさせてるんですが、何分情報が交錯してて…。紅丸有紀が結婚渡米で再編の機運ってとこまでは承知してるんですが、じゃあ、都県境はもう女中心ですかね?」

「まあ、俺もガキらの事情をそう細かに全体を掴んでいる訳ではないが、砂垣の仕切っていた墨東会は頭越しで相和会がその相馬豹子だかって少女を使ってコントロールはできるだろう。ふう…、相馬はガキのおっぺ返しにギャルを担ぎやがった。まったく毎回やらかしてくれるわ(苦笑)」

ノボルには、坂内がこの事態を割りと余裕を持って受け止めているのが伝わった。

”もっとイラついてもおかしくないが、何か他に関連の動きがあるのだろうか…”