その11


椎名と別れて鶴見を愛車、シルバーグレーのスカイラインで、ノボルが一路西に向けて出発したのは午後1時半過ぎだった。

この日は行けるところまで走って車中で一泊、翌日は九州に入ってその日のうちに熊本市内で三貫野と落ち合う…。
これが大打ノボルの組んだ当初の行程であった。

”何とも紅葉がうっとうしいな。あれが全部枯れて、そこらじゅうに溢れるかと思うたびげんなりくるわ。桜の時期もそうだが、そう簡単に枯れるんなら咲くなよって言いたくなる(苦笑)”

ドライ&クールなブラックの男、大打ノボルにかかっては、秋の風物詩も人の心を躍らせる桜満開の風光明媚も、”余分なモノ”の範疇に押し込まれてしまうのだった…。


***


運転中のノボルの頭の中では、これからのシュミレーションを幾通りも繰り返されていた。
これは一種のイメージトレーニングを伴っていた。

もっとも、それを大打ノボルという男は、暇さえあればやっていたし、言わば日常行為ではあったが…。

そのノボルが熊本に入ったのは、神奈川を経って翌日の夜…、概ね予定通りの到着となった。

そして、その夜10時ちょっと前…。
出先から電話のやり取りで申し合わせした熊本市内の某喫茶店で、三貫野ミチロウと会うことができたのだ。


***


”ほ~、ビジュアルは予想とちょっと違ったかな(苦笑)”

ノボルは180を超える長身、きれいにウェーブの利いた髪型と…、ブティックを経営してるだけに当然ながら着こなしはセンス良く、まるでホストさながらな佇まいの三貫野ミチロウに、思わず苦笑いを漏らしていた。

「…いやあ、遠くからお疲れ様でした、ノボルさん!三貫野です…。椎名からは、年中あなたのことは聞いています。まあ、以後ヨロシク…」

言葉遣いもまさに接客業を感じさせるソツのなさがにじみ出ていた。
さらに物腰の柔らかさは、どう見ても同年代の悪ガキには見えない。

もっとも、大打ノボルの求める仲間の”外目”はこう言ったイメージを放つ男ではあった。

こののち、”殺人コーディネーター”としてチーム大打の背骨を成し、大打ノボル自身の命運をも左右することとなる、後の”通称タカハシ”…。
この時、二人は運命の遭遇を果たすのだった…。