その3


「お前たちも概ね承知してると思うが、諸星スキームの原点はガキを極道の予備軍、二次組織としては取り込まないという基本理念だ。じゃあ、それ以外のガキ利用でどんなメリットがあるんだって問いかけに、ヤツは一貫してこう答えてきた…」

折本はここで手にしたタバコに火をつけ、ひと煙吸った後、さらにゆっくりと丁寧な語り口でノボルに以下の通り説明した。

”…これからの日本は、ガキが発展途上国の大人並みにゼニを落とす社会に向かう。そこに合わせて新しい産業さえ生まれる下地がある。それが法制化された後は、ガキをメインの消費者とした市場が確立されると…。その市場で、それらの世代を仕切るガキを地域ごとで水面下からコントロールできれば、新たなシノギのマーケットを我々非合法組織が掌握できる。その為には…”

ノボルは間接的に星流会の会長諸星が抱くこのビジョンは、これまでも何度か耳にしていたし、理解もしているつもりだった。

だが、諸星のいわば親会社重役である、東龍会の最高幹部から生にその理論立てを聞くと、この理屈はまさしく今日の日本という国の情勢を正確に捉えていることが認識できた。

...


「要はだ…、従来の愚連隊隊や半グレまがいじゃあ、警察からも単なる隠れ蓑として組織犯罪で括られる。これからの時代は、あくまでヤクザ色の薄い”素人”に経済活動を任せ、我々はそいつらガキを使うのではなく、あくまでも双方の利益、メリットを尊重するパートナー関係を結ぶとな…。それだけの潤いはこれからの日本ではガキ市場だけでたっぷり得られるって訳だしな」

非合法組織とのパートナー関係という響きは、東龍会と合意に至っているが、ノボルにとって今ひとつ抽象的な部分を拭え切れていない面は否定できなかった。
だが…。
これまでは。

だが、こうも具体的な”たたき台””仮想東龍ー大内スキーム”の仕立てを示されると、ノボルのその目には、ぐっとこれからのロード模様が広がってきた。

「…その関係での第一義は、彼らをまず潤わせること。それが最優先になる。我々はいわばその介在活動の応援だ。出資や諸々の力立てをほどこしてな。フフ…、こっちにはたんまり儲けていただいた中から、そのお気持ち分でいいよと実質のアガリをいただく。そこが半グレどもを下請けで使って、全体のアガリを吸い上げる旧来の手法とは画期的に違うとな…」

”なんとわかりやすい説明だ。まさしく、これこそオレ達とこの人たち”双方”にとって、これからの世の中に即した実に理想的なシステムだ…”

ノボルは今更ながらだったが、この諸星スキームに感動すら禁じ得なかった。