その10


鶴見市郊外街道沿いのドライブインでは、大打ノボルと椎名彰利の綿密なミーティングが続く中、何とも腰の入った目での語り合いが相槌代わりの役目を果たしていた。

それはどこかリズミカルでもあったが…。

”椎名はいわば、家族ぐるみでオレたち宿無しのイカレた兄弟に、それこそ愛の手を差し伸べ続けてくれたんだ…”

この時の二人による目での語らい…、そう…、それは、あの寒い夜のことであった

椎名彰利とその母は、家長の父親にあらんばかりの熱意、その一念を以って、説き伏したのだった。

...


”今思い返しても、あの時ほどオヤジに粘り強く詰め寄ったことはなかったな。まるでオレは、何かに取り憑かれたかのように、おやじを必死に説得していた。おふくろと共にな…”

「うーん…、そういうこっちゃなら、”離れ”をな。死んだばあちゃんの遺品やらがそのまんまじゃどん、それでええんなら、迎えちゃる。けんど、支度金はいかんぞ。何分子供だ。小遣いなら別だが」

「父さん…、彼らはいずれ、恩を形のあるもんで返したいと心に誓っとるんだ!支度金でないと意味ない。頼むわ、武次郎たちに自立の軍資金、用立ててくれや」

「あんた…、武次郎ちゃん以外だったら私も余分な口は挟まんよ。でもさ、彰利の頼み、聞いてやっておくれよ。あの子がうちの一人息子にどんだけよくしてくれたか…。あんたもよう知っとるでしょう?」

「まあ、ここは九州じゃなかとだしな。よそモンのコイツがどんだけ肩身を狭くしとったかは、俺もよう知っちょる。それを地元の子に良くされりゃあよう、できる限りはやったりたい。…じゃが、俺も何かと出るもんが多くてな。まあ、自由に使えるヘソクリはタンスの引き出しん中に入っとる分しかないわい。確か18万くらいやったかな…」

「なら、私もヘソクリ7万だけしかないが、彰利、それ、武次郎ちゃんにね…」

”オレは柄にもなく、大げさに両親へお礼を言って、その晩、二人の肩を叩いてやったよ(苦笑)”

かくしてリトルブラックのその第一歩は、まさにわずかながらとはいえ、”軍資金”と言う大きな武器を持っての出立となった…。