その2



「わかったわ。…今の職場は親類筋の伝手で入ったから、どうしても知られたくないの。でも、あなたが今言ったとこが限度。それ以上は私、絶対無理だから‥!」

マユミはここでしっかりと念押しした。
その口っぷりは、どこか真摯かつ愚直さを伴っていた。
で…、その点については、この男にもなぜかドンと伝わったのだった。

「ああ、いいよ。見かけは清楚そうだし、”それ”が限界だって思ってからな。なら、そこの公衆便所でさっさと済まそう」

男はそう言い終わるやいなや、そそくさと20Mほど先にあるさびれた公衆トイレに向って歩き出した。
マユミは少し間を開けて、その後ろに足早で着いて行った。


***


「あのさ、オレは吉原コウジって名だよ。…まあ、こんなことするくらいだからロクな人間じゃあない。それは自覚してる。自分で言うのも何だが、ど腐れ男だわ。…こんな能力を授かりながら、人の役に立つようなことに使おうなんて頭など全くないんだからな…。神様も、しまった!…ってところだろう(苦笑)」


「何でもわかるの?それって…、予知能力とか、読心術とか…」


「いろいろさ。基本は直感だ。要領は興味を持って、ストックしているエネルギーを然るべき”一瞬、一点”に注ぐこと。今回なら、あんたとのエッチ目当て、それだったさ。そういう下劣な人間なんだ。さあ、人が来る前に”個室”へ入ろう‥」


吉原はマユミの背中を軽く押っぺすように、男子便所の大便器スペースへ入りこむと、ドアのカギをかけた。

***


陰臭漂う、絵に描いたような遊歩道脇の公衆トイレの狭くうす暗い空間…。
静かな昼下がりに、奇妙な行き掛かりでの淫靡で濃艶のひと時は、結構あっさりと”クライマックス”を迎えた。

で···、コトを済ませた吉原は、さっぱりした口調でマユミにこう告げた。


「…ああ、マユミさん、後はやっとくからいいわ。アンタはもう行ってくれ」


「いいんですか、"後始末"しなくて…❓」


「いいよ。人が来る前に引き上げな。今日はいきなりで済まなかったな。ありがとう…。なかなかよかったよ」


吉原はコトを終えた後も最初と変わらずで、ある意味、マユミには終始堂々と接していた。


「…」

そんな吉原の態度と佇まいに、マユミは目をぱちくりさせ、ある種のカルチャーショックを受けていた…。
と同時に、ひと目でスーパーのセール品と分かるポロシャツをセンスなくぎゅうぎゅうで着こなす吉原の素晒しの様に、愛おしささえ感じてしまうのだった。


ティッシュを手に、そそくさと行為後の後始末にいそしむ姿を目の当たりにし、彼女が写し取った目の前の野暮ったい中年男はなぜか神々しかった。


”アイツもコレ、やってくれてる。いつもエッチの後…。でも、違う…。このおじさんとあの人のやってること…。なんだろうか…、この感覚…”

マユミの言う”アイツ”…。
それはホストのカレシであったのだが…。