その1


ある初秋の晴れた日…。
水路沿いの遊歩道で、北野マユミはすれ違った中年の男に呼び止められた。


「あなた…、ちょっと、いいですか?」


「何でしょうか?」


「ぶしつけだが、忠告させてもらいます。先に言っとくけど、自分には人の行動とかをピンと当てる能力がありまして。…あなた、勤め先の金、着服してるはずだ」


「!!!」


正にいきなりであった…。
ガタイがしっかりした野暮ったいそのオトコは、全く躊躇することなく、そのものズバリの直言だった。

もう、マユミの驚きようときたら、心臓が停止するほどであった。
なぜならば、男の言う通りだったのだから…。


***


「…今、面と向かって、更にわかったことがある。その金、男に渡すためですね?お相手は、ホストじゃないですか?」


「…」


”なんで‥⁇何なの‼どうしてわかるのよ…、初めて会ったこの人に…⁉”


マユミは頭が混乱していたが、まずもっては”この疑問”に行きついていた。


「…理屈抜きにわかっちゃうんです、オレには。その辺を説明すると長くなるから、今は省略して手っ取り早く言います。…こっちの要求を呑んでくれれば、全部黙ってますよ。たぶん、次の給料が入るまでの流用だろうから、その間バレばきゃ済んじゃうんでしょう。だが、アンタが突っぱねれば、会社に垂れ込む。勤め先も承知してるし」


「あなた‥、どうして…‼」


マユミはどうしても言葉がスムーズに出ない…。

***

「…オレにはいろんなことがわかっちまうんで、人の抱えた弱みに付け込むことができるんだよ。はっきり言っとくが、金とかが目的じゃない。端的には、好みのタイプの女性専門ってことですわ。ヤローとか、他の対象は無視することにしてるんでね。ここまで言えば、オレが何を望んでるか、察しが付くと思うけど」


さすがにここでマユミにも、目の前にいる男のハラは把握できた。


「それって、脅迫になりますよ‼」


28歳間近のマユミにとって、これが精いっぱいの切り返しであった。
そんな彼女の心を見透かすかのように、男は至って平静に答えた。


「そうだよ。あんたの弱みに付け込んでエッチなコトを強要するんだ。こっちも犯罪行為さ。だから、あんたが条件を飲んでコトが済めばそっちも弱みを握れる。なので、その後にはもう脅されることはない。バーターになるってことさ。それを敢えて、最初から提示した。要はこっちも一回こっきりで終わりにするつもりなんだよ」


「…」


「…はっきり言うが、ラブホテルで最後までってとこまでは要求しない。ぶっちゃけ、オレの性欲求を解消してくれればそれでクリアさ。後日またとかってダマシはないと誓う。場所はココでいい。まあ、誘導はこっちでするし、アンタはそれに合わせる程度でかまわん。ものの数分だよ。どうだ?」


「いやって言ったら、告げ口するんでしょ?」


「間違いなくやる。嫌ならそれでもいいですよ、お嬢さん…」

男は、ここでも毅然とこう言い切った。


「…」


ここでマユミは決心する…。