顛末噺


”…今日午前8時ちょうど、横浜市○○区の歩道を登校中の小学生の列乗用車が突っ込んだ事故で、車にはねられた児童二人は今だ意識不明で…”


「…マユミ、オレはまた苛まれているよ。いっそ、雄太の登校班だけでも救うべきだったのじゃないかと…」


「ううん…。あなたの判断は間違っていないわ。良かれと思って中途半端に世間に告げれば、それこそ大騒ぎよ。当たれば、何者なんだアイツはってことになるし、外れれば、それこそ悪魔に魂を売ったいかがわしい予言者扱いになる。いいのよ…、あなたの能力は、私たちの幸せな生活を守るためだけに使えば…」


そう言うと、マユミは誠に怪しい微笑を浮かべていた。
だが、その面持ちには”迷い”という二文字は存在しなかった。


”あの吹かれる風の如くヤワだったマユミがこうまで強い意志を持ち得るとはな…。でも、かわいいや”


ベッドで自分の体に抱き着きながら、半ば不遜な表情の現女房に、”かつての彼女”を照らし合わせる吉原の胸の内は本格的に屈折していた。

***

「…でもよう、一番の仲良しだった2丁目の高橋さんとこの隆夫君、意識不明の重体なんだろう?…何ともなって気持ちはある…」


吉原はため息交じりだったが…。


「ダメよ!そんな気持ちに持っていちゃ…。あなたは長年、持って生まれた能力と向き合って、考えに考え悩んだ末、性根を入れて決めたんでしょ?…ど腐れの道を生きて行くって…」


「ああ…。一緒に、いいんだな、マユミ…?」


「もちろんよ!ふふ‥、雄太の友達なんか、いくらでも代わりは見つかるわよ(薄笑)」


吉原はベッドの中でマユミと顔を見あった。


”コイツの目…”


一児の母となった妻のその目は、吉原が出会った日に見た若い女のそれとは、改めて明らかに別人のものに映った…。


その夜…、テレビから流れる近所で発生した暴走車事故のニュース音声をBGMに、この年の離れた”ど腐れ夫婦”二人は、いつも以上に燃え、互いのカラダを貪りあうのだった…。



ー完ー