「レオ様は……魔女が嫌いではないのですか?」

 二人で夕食を囲みながら、フローラはここ数日で不思議に思っていたことを聞いてみた。

 フローラの記憶の中の人間は、皆『魔女』と聞くと怪訝な顔をする。そればかりか嫌な態度をとる者ばかりだった。
 だが、レオと数日暮らして、彼がそういう嫌悪感を抱いているようには見えないのだ。

 初めは、怪我をして逃げられない手前、友好的なフリをしているだけかもしれないと疑っていた。
 だが、フローラに興味を持ち、魔法を見ると珍しそうに目を輝かせる姿は偽りのない姿に見えた。なぜ、彼は魔女が平気なのか不思議だったのだ。

「レオで良い。……嫌い、とは?」
「いえ……。近くの街では、魔女と聞くと嫌な顔をされることばかりで。レオ……様は、そういう顔しないなって、思って」
「フローラは命の恩人だ。それに魔女だからといって嫌悪する理由は私にはない」
「え……」
「しかしそうか、フローラは今でも魔女だからと嫌な顔をされながら暮らしているのか。だからこんな森の奥に住んでいるんだな」

 レオの金の瞳がフローラを見つめる。そしてなぜか苦しそうな表情になった。

「魔女だといって迫害した歴史があることは事実だ。しかし今になってもそういう目で見る輩がいるということか」

 レオの言葉に曖昧に微笑む。それを肯定だと受け取ったレオは、持っていたスプーンを置き、しっかりと頭を下げた。

「私が謝ってどうにかなることではないが、人間が君たち魔女に迷惑をかけた。申し訳ない」
「そ、そんな! レオ様は全く……!」
「いや、魔女だけではない。奴隷だ平民だ貴族だと、この世界は差をつけたがる。私は皆が笑って暮らせるように、もっと尽力しなくてはならない……! 許してくれとは言わない。だが、いつか魔女だからと白い目でみられる事のない世の中にしてみせる」

 そう真っ直ぐ宣言するレオは、とても輝いて見えた。
 今までフローラの気持ちにここまで寄り添ってくれた人はいない。
 フローラは、胸がいっぱいになるのを感じた。

(ああ。もうだめ。もう、気持ちに蓋が出来ない……)

「ありがとう、ございます。レオ……様」
「レオでいい」

 フローラが笑顔でレオにお礼を言ったことで、レオもふっと力を抜いた。金の瞳が細められ、柔らかく笑うレオを見ながら、フローラの心臓は大きく高鳴っていた。
 そうしてフローラは、自身の気持ちにしっかりと名前をつけたのだった。