4階の第一音楽室。
譜面台に使われていない机に、黒いソファ。



「──あの、久世くん」
「なに」

「その、手、もう離してもらえると……」



腕を掴まれたままの私の言葉に、隣に座る久世くんは「引っ張ってった言ったのは花戸さんなのに。離していいの?」なんて、訳の分からないことを言う。

離していいに決まってるよ。
だって、久世くんに触れられると、心臓が痛いくらいにドキドキするんだもん。

このままじゃ保たないんだよ……



「離してほしい、です」
「まだこのままでいてほしい、じゃなくて?」

「なっ、そんなこと思ってないよ……っ」



ほっぺたがあっつい。
カーディガン越しに掴まれている右腕もあつい。

久世くんは私の反応に小さく吹き出してから、パッと手を離してくれた。



「冗談だろ。一々本気にすんなよ」