「成瀬」 前を向いたまま、星野がわたしを呼ぶ。 ドク、と心臓が大きく鼓動した。 ただでさえ静寂に包まれていたのに、微かな風の音さえも聞こえなくなる。 そして、告げられた一言。 「────海、行くか」 目の前にある分かれ道。 右に行けば、わたしの家の方角。 左に行けば、海がある。 入学式の日、屋上から見た海が、広がっているはずだ。 寄り道。 どこかワクワクするような、そんな響き。 憧れないと言ったら嘘になる。 けれど。