「……あ」

 一定のテンポを刻んでいた足が止まる。
 遠い遠い、遥か彼方に。


 海が、見えた。


 思わず息を呑んで手を伸ばす。届かないのに、届くはずがないのに、ひたすら夢中で。



「何、やってるんだろう……」



 ここはいったいどこなんだろう。

 現実の世界なの?

 いや、きっと夢の中なのだろう。

 そうじゃないと、こんな奇跡起きるはずない。



「……浸っていたいな、ここに」


 夢ならどうか、醒めないで。

 ずっといたいよ、ここに。


 何にも縛られない、頑張ることも、歯を食いしばることも、嫌な思いをすることもないこの世界は、わたしが憧れた世界だ。
 絶望することもない、落胆することもない、逆に期待はずれだと思われる必要もない。

 周りの目、注目、そんなものをいっさい受けない、自由な場所。

 ここにいられたら、どんなに楽でいられるだろう。