ヴァンキッシュの吐く荒い呼吸音だけが響く、冷たい空気に満たされた医務室へと入り、ナトラージュは自分を落ち着かせるように何度か大きく息をついた。

 まさか自分がこういう事をする初体験が、こんな展開から始まるものだとは夢にも思わなかったから。

 結局あの後も、困り顔のグリアーニは言葉を重ね、何とか思い留まらせようとしていた。

 だが、医務室から出てきた治療士に「……で? 結局、どうするんです? このままだと、外交官が死んで外交問題になりかねませんけど」と、言外に急かされてナトラージュの真剣な目を見て、ようやく説得は諦めたようだった。

 口早に説明してくれた医療士の話によると、ヴァンキッシュの意識はかなり混濁していて普通の状態ではない。このままでは痛みや息苦しさなどで、出来ないかもしれないからと、媚薬のようなものを飲用済みで、彼の体はそういう事がしやすくはなっているらしい。