ジェラルディンと別れ、ぺたぺたと宿舎の廊下を歩きながら、生クリームたっぷりのホールケーキを完食してすっかりご満悦のラスは呟いた。

 艶々とした硬い鱗に包まれているはずなのに、お腹の部分が心なしかぽっこりと膨らんでいるような気がする。

「……そんなに食べて。太っても、知らないから」

 呆れたように、ナトラージュは横目でラスを見た。

(あのちゃらちゃらしたいけすかない男よりは、グリアーニの方が良いと思うぞ)

 あの人は豪邸に住む大貴族の嫡男で、王太子のお気に入り。そんな彼が一介の召喚士と、どうこうなるはずがない。けれど世間を知らないラスには、そんなことはわからない。ナトラージュのお相手を、自分なりに品評しているつもりなのだ。

「……そうね。確かに、格好良い人だよね」

 優雅で貴族的ではないが、野性的な精悍な顔立ちは魅力的な人だった。鋭い気配を感じてびくっとすることはあったけれど、命のやり取りをするのが仕事の騎士なのだし、それは仕方ないことなのかもしれない。

(顔だけの男じゃ、駄目だぞ。男には太っ腹なところも必要なんだ)

 ケーキでふくれたお腹を抱えて、ラスは得意そうに言った。