貴族なので訪問するには先触れが必要だったのかもしれないが、リンゼイ家の領地ゲインズブールという田舎でずっと暮らしていたナトラージュには、王都での社交のそうした方法もわからなかった。

「……とりあえず、裏門に回ろっか。ラス」

(そうだな。ここで立ってても、仕方ないもんな)

 こういった豪邸には数多くの雇われた使用人が絶対に居るはずで、彼らは裏門から出入りする。そこで誰かを捕まえて事情を話せば、ここに住むグリアーニに取り次いで貰えるはずだ。

「……失礼、お嬢さん。こちらのリーダス家に、何か御用ですか?」

 一人と一匹が踵を返し歩き出そうとしたその瞬間、感じの良い初老の執事が現れ、鉄柵の隙間からこちらを覗き込んだ。邸の扉付近で、心配そうに見守るメイドが居る。彼女が彼に、門の前に誰か居ると伝えてくれたのかもしれない。

「あっ……すみません。あのっ……グリアーニ・リーダス様に、この前助けて頂きまして。お礼にと思ったのですが、ご在宅でしょうか?」