何も言われずに取り残された形になったラスは、慌てて飛び上がり飛行して追いかけて来る。

(おいおい! 待てよ。ナトラージュ。助けに行きたい気持ちもわかるけど、すぐにグリアーニが来てくれるから待てよ! 行くなら、あいつに一緒に居てもらえ)

「嫌よ! 間に合わなかったら、どうするの! 私が行っても、仕方ないかもしれないけど、このまま何もしないと、彼が死んじゃうわ!」

(我儘を言うのも、いい加減にしろ! ナトラージュが行っても、どうしようもないだろ! 暗殺集団だぞ! どれだけ、危険だかわかって言ってるのか!)

 飛んでいるラスの凶暴な顔が、本能のままに牙を見せ彼はナトラージュに向かって初めて本気の威嚇音を出した。

「それでも、あの人が死ぬのが嫌なの!」

 脅すような声を出した闘竜に負けずに、ナトラージュも顔を真っ赤にして悲鳴のように叫んだ。

 暗い視界の中で地面にある何かに躓いても何度も立ち上がり走っていくのを見ていたラスは何も言わずに、後に続いて飛んだ。

(暗い森の中に、死を覚悟して一人で行くなんて……行かないで、行かないで。すぐに行くから……お願いだから!)

 やっとたどり着いた森の中特有の湿った空気が、身を包む。この森の何処かに、彼は居る。

 まだ召喚陣が発動しているために、幻獣界に帰っていないシルフィードはナトラージュの必死な様子を面白がって、気まぐれにも助けてくれるようだ。目の前を青い光が走ってクスクスという笑い声が聞こえて、案内するように振り返る。

 それを見て、また走り出した。

 始まってしまった何かの向かう先、どうか間に合ってと願いながら。