もう何を言ったとしても、降ろして貰えなそうな状況なので、ナトラージュは言い募ることを諦めてローブのフードを目深に被った。こうすればすぐ傍にある尋常ではない程に美形な顔は見えなくなってしまうし、慣れない異性の存在に緊張し過ぎることもない。

 ヴァンキッシュは、城へと続く渡り廊下を軽い花束でも抱くようにして歩いた。しっかりした足取りで、ナトラージュを抱えていても特にふらつくこともない。

 もう夕食時なので、食堂へと集まっているのだろう。今はすれ違う人もいない。ラスは不満そうな表情をしつつも、黙々と後ろからペタペタと足音を立てながら二人の後を付いて来る。

「……ここで、良いのかな?」

 ヴァンキッシュは特に行く先を聞いていないのにも関わらず、迷いなく見習い達が住む簡素な宿舎が集まる場所に辿り着くとナトラージュに問いかけた。このクラリッサ城の中で、白い上着やローブを着ているのは見習いの証拠だ。

 温かな腕の心地よさに思わず目を閉じていて、ようやく今何処かを把握したナトラージュは、はっとしてフードを外すとここから降りようと体を捩った。