とにかく立ち上がろうと、足に力を入れようとした。けれど、一歩目を踏み出す前に膝が崩れ落ちてしまう。炎天下に長時間外に居たので、自分では気がつかない間に、体はひどく消耗していたようだ。

「……大丈夫かい?」

 ヴァンキッシュは、優雅な動きで男性らしい筋張った手を差し出すと、よろけてしまったナトラージュを支え、あっという間に一気に胸に抱き上げた。

 とんでもない美貌を持つ優男だが、意外と力が強くて驚いてしまう。思いもよらぬ状況に、小さく悲鳴を上げてしまった。

「ディレイン様! おっ……重いので! どうか、降ろしてください。一人で歩けます!」

「つれないな……僕の名前を知っているなら、どうかヴァンキッシュと呼んで。立ち上がることすらままならないのに、無理をしない方が良い。そんな体では、何処にもいけないだろう? 僕が部屋まで、送って行くよ」

 どこか楽しげに見える彼は、柔らかな声音で諭すように言った。

「あの……あのっ」