加奈子は、父親である学を心底嫌っていた。

物心ついた頃から、酒乱の学はいつ見ても酒に飲まれては家族に当たり散らしていた記憶しかないからだ。

さらに、数年前から加奈子は益々、学を嫌うようになった。

加奈子は、そのドライな性格が災いして、学生の頃から、どの彼氏とも長続きしなかったが、一度だけ、本気で結婚したいと思った相手がいた。

大学卒業直後、地元で退屈な仕事をしていた加奈子は、何とかして再度、東京で楽しく暮らしたいと願っては、ため息の日々。

中山家のすぐ近くには、そこまで規模は大きくないものの、地元では有名かつ評判のいい会社がある。

ある日、その会社の社長令息(次男、当時30才)が、東京から帰省していた。

これぞまさに、シンデレラストーリーなのだが、たまたま、その社長令息が加奈子を見かけて、一目惚れしたのである。

息子の気持ちを知った社長は、態々ブタ小屋のような中山家を訪ね、加奈子に息子との縁談を持ちかけてきた。

当時、大学を卒業したばかりだった加奈子は、まだ結婚など考えるはずもない。

しかし、サッと目を通したらすぐ返すつもりだった釣書と見合い写真を見て、驚嘆。

これまで言い寄ってきた男に、こんなにも、条件だけでなくルックスまで王子のような人はいなかったし、この先も、このレベルの男が現れる筈がないということは、小娘でも直感でわかった。

この人となら結婚してもいいかも…いやいや、是が非でも!と思った加奈子。

若い娘など、現金なものである。