志津子は、正直なところ、学に対して愛情などなかった。

しかし、学と知り合ったのは22の頃で、あの時代は20代前半で結婚して家庭に入るのが一般的だった。

いきおくれだと思われてはたまらないので、調子よく言い寄ってきた学に、半ば騙されるような形で結婚してしまったのである。

若い頃から身勝手だった学は、結婚するなら年下の処女がよかったので、当時交際していた年上の売れないモデルを棄て、年下の処女という理由だけで志津子と結婚したのである。

いくら愛情がなくても、家柄のいい志津子は、プライドがチョモランマの如く高い。

そんな彼女は、愛情の有無など関係なく、自分という正妻が居ながら、他の女に平気で手を出し続けた学を、殺めたいほど憎んでいた。

しかも、もうじき75にもなろうというのに、まさか未だに浮気をしていたとは…。

あんな爺さんがタダで相手にされるはずもないので、本来は家に入れるべきだった金も、大半をあの下品な女につぎ込んでいたのか…。


「おい!さっさと茶を持ってこい!」

今日もソファにふんぞり返り、偉そうに命令する学。

(このクソジジイ…絶対にゆるさない!)



時は流れ、あれから10年。

学は85歳を迎えたが、未だにピンピンしているのであった。

これぞまさに、呪うに死なず…。



The End