志津子が親戚たちに電話をした2日後、最初は学の弟妹らが首都圏からやって来て、反対方向からは律子が、そして、志津子の姉夫婦も見舞いにやって来た。

しかし、全員が内心、学の様子を見て疑問を感じていた。

食欲旺盛、スタスタ歩く、声も無駄に大きいので、とても危篤の人間には見えない。

なので、親戚一同は見舞いもそこそこに、いそいそと観光に出掛けた。

志津子、律子、加奈子も、学が死ぬ兆しがないので、ファミレスで爆笑トークをしながら食事を済ませたあとは、カラオケに行き、声が枯れるまで歌っていたことなど、学は知る由もない…。

3日後、親戚一同は結局、観光だけして帰って行ったようなもので、入れ替わりに律子の夫が学を見舞った。

律子の善良な夫ですら、学の様子には疑問を感じていたようだ。

一流ホテルから転職した彼は、かなり多忙な為、律子を乗せて、車でとんぼ返りし、結局のところ、志津子と加奈子だけが残された。

学は偉そうに、志津子にあれを持ってこい、これを持ってこいと命令する毎日。

そして、志津子の送り迎えをするのは加奈子。

一体、いつまでこの状態が続くのか…。

二人はかなりのストレスを感じていた。

しかし、自分が危篤だとは露知らず、学は、これだけ大勢の親族が自分を見舞うことを、あろうことか、自分は人気者だと勘違いしていたのである。