嫉妬や執着。その言葉は本の中の世界だけで留まるものだと思ってた。


そんな世界が

ずっと無縁だと思っていたことが

することも
されることも

経験してしまうなんて……誰が想像できた?



「〜♪」

「慎二くん」

「〜♪♪」

「ねぇ」

「〜♪♪♪」

「ちょっと」

「ん? あ、なんすか〜?」



本でトンっと軽く頭を叩いてみると、ずっと鼻歌を歌っていた慎二くんがやっとこっちを向いた。



「この本も補充してほしいって」

「ほ〜い!了解っす!」



そしてまた、鼻歌。

しかも朝からずっと同じ曲。



「好きなの?」

「ん?」

「その歌」

「え、これっすか?」

「違う。店のBGMじゃなくてアンタがずっと口ずさんでるやつ」

「あれ、俺歌ってました?
頭の中で奏でてるつもりだったんすけど」

「朝からずっと漏れてたわよ」

「マジっすか」

「まじ」



どうやら本人は気づいていなかったらしい。

だいぶ漏れてたけどな。