「……望むことなんて何もないよ。」
想いが漏れてしまわないようにグッと心に押し殺す。
意識を逸らすために外の景色へと視線を向けた。
高いところから見る夜景はやっぱり思っていた通り綺麗で、今の私とは真反対の輝きが一面に広がっていた。
「やっぱり、若干傾いてそうだし」
向こう戻るね。と、立ち上がる。
が。
「こうすれば怖くない。」
春はそのまま私の腕を引いて自身の膝と膝の間のスペースに私を収め、後ろから緩く抱きしめる。
この感じに……勘づいたことが一つ。
「アンタ……高いところ本当に苦手?」
「苦手だよ?ほら、怖すぎて手震えてる。」
確かに震えてはいるけどそれにしては大袈裟過ぎるというか。
さっきまであんなに怖がってたくせに今じゃヘラヘラしてる辺りが嘘くさい。
だって今思えば、こいつタワマンに住んでるし。しかも32階。高所恐怖症なら絶対に住まない階だろ。
じわじわと上っていく観覧車はあともう少しで頂上へ。
そんな中、自称高所恐怖症の男は私の肩に顎を乗せて、どこか甘える声で話し始める。



