(海水浴に行こうって誘った時もあんまり乗り気じゃなかったし…)



「アイツが海に入らない理由、気になるか?」

「っ! びっ…くりしたぁ…」



気になっていたのがバレバレだったようで、橋本はビーチボールを脇に挟んで濡れた髪をかきあげた。



「小さい時に1度海で溺れたことがあるらしくてな。そこから海に入るのが怖くて、海に入る撮影は今でもNGを出してる。まあトラウマってやつだな。」

「そう…なんですか…」



そんな大事なことを、なんで春は私に教えてくれなかったんだろう。



(言ってくれたら…海水浴になんて来なかったのに)



心の中で少し残念な気持ちがあった。


橋本には言えて、私には言えない。


仕事上マネージャーや橋本には伝えておくべきことだとは思うけど……


だとしても、秘密にされるのは、悲しい。



「私……ちょっと泳いできます」

「おう。そんなに遠くには行くなよ」



橋本の言葉に頷いて私は軽く沖の方へ泳いだ。



海の波は緩やかで、ゆっくりと泳いで足のつかない深い場所までやってきた。

私はそんな場所でただ空を見上げたり、水中に潜ってキラキラと輝く海面を下から眺めた。



周囲からはほとんど音が聞こえてこない。


この静寂が、私を深い沈思に誘う。



(橋本には言えて、私には言えない。その違いって何?)



もう私達は秘密を隠すような関係じゃないのに。



(秘密を隠されるの悲しい。なんて言えば面倒がられるのかな……)



私は一人、海の中でただただ悲しみに身を任せ瞳を閉じた。


海は広く、その青は深く、私を包み込むように広がっている。