もちろん「うん」なんて言わない。
言った後のコイツの顔が想像つくから。
プイッと顔を背ける。
「あの本、自分で買ったの?」
「………………」
「本にしては結構高かったんじゃない?」
「………………」
「なあ、凛。」
「っ、!」
ヒョイッと軽々しく私を抱えあげると広い洗面台の上におろされる。
私がそこに座われば、ちょうど春と同じ目線になる高さ。
だからかな、見つめる先には色素の薄い瞳がハッキリと見えるのだから
その瞳に捕らえられ
ポーッと見惚れてしまうと
「………買っ、た…」
つい口に出して言ってしまう。
ああ、くそっ。
だから言いたくなかったのに。
「あはっ、…かわい。」
口角を上げて笑う姿は
まるで獲物を見つけた獣のようで
「写真集なんて買わなくても凛には本物がいるじゃん。」
「………っ」
「ああ、でもそっか。俺がいない間はあれで寂しさ紛らわしてたんだっけ?じゃあ必要か〜」
「うるさ、んっ…」
唇に触れた柔らかい感触。
躊躇いもなく優しく触れ合った。
一度触れ合えば、もう一回、と言葉にするよりも先に何度も触れ合う。
この家で寂しいと思った分を帳消しするみたいに何度も何度も触れ合った。
この感覚をもっと味わいたくて、春の首に腕を回す。ギュッと引き寄せてしまえば優しく触れ合うだけのそれが深さを増していった。
静かなこの部屋にいやらしい音が鳴り響く。
それは、お互いが求め合っているからこそ鳴る音。



