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「休憩行ってきま〜す」

「行ってらっしゃい」



ピークが過ぎて、順番に休憩タイムに入っていくこの時間帯。

昼までのパートさん達もこのタイミングで勤務が終了し、必然的にも店内に残るのは店主と私だけになった。



(疲れたー…)



座りたいけど、カウンターにある椅子は一つだけ。その一つは今店主が使ってる。

私は店主のその姿を横目で見ながら溜め息混じりの息を吐いた。

だって朝からずっと座ってるし。


思うところは沢山あるけど、さすがに前みたいに口には出せない。

迷惑を掛けた、という申し訳なさが私の中にはまだ残っているから。



(……ゴミでも捨てに行こっと)



気分転換?ってことにしておこうか。

とりあえず外の空気を吸いたくて、店内のことは店主に任せておいた。

これでレジも接客も全て放ったらかしだったらさすがにキレてやる。



まだ半日程残っているけど、既にパンパンになったゴミ袋を2つ持ってゴミ捨て場へ。

外は明るく、狭い路地裏だとしても日差しは少しだけ入り込んでいて、街灯はもちろんついていない。



「よいしょっと…」



2つのゴミ袋をゴミ捨て場に置き、私はそっとその場にしゃがんだ。


それにしても……本当に疲れた。

最近流行りのアイドルグループ。
その子達が表紙を飾った雑誌。

今日発売のそれは、わずか数時間で完売した。

朝から店外で並んでいる人がいるなー…なんて思っていたけど、案の定、忙しくなる案件だった。



(今はあのグループが人気…か)



前までは一ノ瀬櫂ブームだったのになー…って。

流行りは変わっていくもの。分かっているけど、彼のブームが終わってしまったのかと思うと、ちょっと寂しい気持ちになった。

彼は今海外で活動中。テレビには出ていないし、まあ仕方がないよね。



だけどハッとする。

私、ちゃんと彼のことを応援しているんだって。



前までの私にはなかった感情。

以前の私なら彼の仕事がうまくいかないように願っていたかもしれない。


でも、今は違う。


今の私は

一ノ瀬櫂の姿を

また街中で見かけたいと思ってる。


大きなスクリーンに映し出される彼の姿を見たい。
ポスターにも彼の魅力を映し出してほしい。



レンタルショップで借りれるような昔の作品なんかじゃなくて


早く、新しい作品で、彼の姿を目にしたい。



「………よし。」



少しワクワクとした気分でその場から立ち上がる。


次はどんな役なんだろう、と。今日はそんなことを考えながら仕事をしようと思った。





──── 唐突に始まった彼との物語はここで一旦終わり。


またスタートするまで約1年とちょっと。

季節は1周し、また新しい年へ。