「本当は、海外での活動をずっと悩んでた。新しい環境で自分を試してみたいし、自分の可能性を広げたいって。
けど、仕事を優先して凛とは疎遠になって、俺のいない場所で凛の心が離れてしまったら?繋ぎ止められなかったら?……そう思うと、不安で仕方がないんだ。」
春は落ち着いた口調で言葉を紡ぎ、静かに深呼吸を繰り返す。
彼の視線は遠くを見つめ、思いを巡らせるかのように深く考え込んでいるようだった。
「自分の可能性を追求するためには海外での経験が必要なんだって分かってる。
けど、間違った選択はしたくない。
今、手にしている幸せを、失いたくないんだよ」
春の言葉には切実な想いが込められていた。
新しい可能性を求める一方で、今手に入れた幸せを守りたいという葛藤があるのは当然だ。
春は未知の世界へ踏み出すことで得られる成長や充実感に惹かれてる。
けど同時に今現在の幸せを失うことへの不安が春の心を揺り動かしているのだろう。
さっきまでの眠気は一瞬で吹き飛び、
私は春に預けていた身を戻し、再度座り直す。
そして春が見ている先を同じように見つめた。
「どちらかを選ばなければならないとしたら、春はどっちを選びたい?」
私が尋ねると、春はしばらく考え込んだ。
「……正直に言うと、自分じゃ決められない。
でも、どちらを選んだとしても、間違った選択だったとは思いたくない。正しい選択をしたって思いたい」
春の目には強い意志と覚悟が宿っていて
この時、私は初めて、春の心の内を知れた気がした。
春は私に依存している。
けどそれは私が想像していたほど重くはない。
どちらかといえば春の愛は一般的な方だったりするのかも。
そう気づいたとしても
不思議と淋しさはなかった。
寧ろ、ホッとした。
それなら穏やかな気持ちで距離を取ることができると。
私は春に対し「自分自身を信じて自分の選択を優先して欲しい」と伝えたんだから。



