「うるさい!!!
一般人のアンタに何が分かんのよ!」
彼女は顔を引きつらせて叫ぶ。
「アタシは、ずっと、努力してきたんだからっ…!」
一花さんはゴシゴシと手で目を擦った。
そんなに擦ったらメイクが取れてしまうんじゃ、と。
心配をしているのはどうやら私だけみたいで、張本人の一花さんはメイク崩れなんて気にすることなく涙を流す。
「なのに最近冷たくなって…しかも結婚なんて。全然知らなかったし、すごくショックだった。」
しゃくりあげて泣く一花さんは上手く喋れずにいて。
けど、それでも必死に言葉にしようとする。
「だって春は、あの頃からずっと、アタシだけを愛してると思ってたのに……」
この言葉に、春は一度ピクリと反応した。
「あの頃って……」
「……………………」
チラリ。春の様子を見てみるが、春は黙ったまま何も言わない。
考えているみたいだった。
一花さんに言う『あの頃』は、
カタチ上夫婦になっていたときのこと?
(でもそれって、カタチ上なだけで。役作りのためにしていたことなんじゃ…?)
思考が混乱気味の中、一花さんはもっと混乱させるようなことを言う。
「……愛してるって言ってくれたじゃん。あれは嘘だったの?」
「は…?」
思わず声が出てしまった。
は? え、愛してる?
春が一花さんにそう言ったの?
カタチ上だって言ってたのに?
これは一体なんの話だと言わんばかりに春を見る。
だが目が合うことはない。
春はその色素の薄い綺麗な目で一花さんを真っ直ぐ見つめ、困ったように顔を歪ませては大きなため息をつく。
「…一花」
そして申し訳なさそうに彼女の名を呼んだ。
「あの時のことは、全部演技だよ」
ゆっくりと、丁寧に。
「愛していたことは一度もない。」
しっかりと彼女の耳に入るように。



