「あ……」
冷たい声でそう言い放つ春に彼女の手は小刻みに震えていた。
殺意の目を向ける春。
今にも彼女の胸ぐらを掴みに行きそうな、そんな雰囲気を醸し出す彼に私は腕を掴む。
「ちょ…手を出すのは絶対にダメ」
少しばかり焦る私。
けど春はふわりと笑った。
「大丈夫、出さないよ。」
「っ」
「でも宝物を傷つけられたんだ。
それなりに怖い思いはしてもらう。」
そう言う春だけど
彼の表情は分かりやすく怒っているし
脅しているというよりも、本当にそうしてしまいそうな気がして仕方がない。
その言葉に安心出来なくて、私は彼の腕を掴んだまま。
ここに来たのは仕返しが目的じゃない。
ただ、彼女と話をしてほしいだけ。
終わらせて欲しかった。
過去に関係があろうと
もう彼女に興味がないのなら
今ここで関係を断ち切ってほしいだけ。
「この女のどこがいいわけ…?」
声を震わせながら一花さんがぽつりと呟いた。
「どこにでもいるただの一般人じゃん!」
そうだよ。
一花さんの言う通り、私はただの一般人。
「アタシの方が先に出会ってたんだから!」
春に出会ったのは本当に最近で
春が声をかけてくれなかったら
私が春の家に住まなければ
物語は始まらなかった。
「それに、身体の関係だって…!」
この人が今後どうなろうと構わない。
今までと変わらずテレビに出ようと
雑誌の表紙になろうと、なんだっていい。
ただ
「あの、一花さん」
「なによ!!」
キッと鋭い目付きを私に向ける一花さんに
私は表情を変えることなく言う。
「私に見栄を張るよりも先に、春に伝えたいことはないんですか?」
「っ!」
「言葉で言い表さないと伝わるものも伝わらないと思います」
「うるっさい……」
「後悔、しているんでしょう?
嫌われるくらいならこんなことしなきゃ良かったって」
「っ………」
「なのにこのまま気持ちを伝えず終わらせる気ですか?せっかく目の前に本人がいるのに?」
「うるさいうるさいうるさい…!」
ヒステリックに叫ぶ一花さんをしっかり瞳に映しながら彼女もとへ足を運ぶ。
そんな私を春は止めようとしたけど、私は「大丈夫」と小さな声で言った。
「なんなのよアンタ……ムカつくムカつく…!」
荒れ狂う一花さんは綺麗な髪を手でグシャグシャにしている。
そんな彼女の目前に辿り着くと
私は彼女の顎に手を添えて顔上げさせた。
「…最初から最後まで度胸の無い人。よくそんな性格で名が広がりましたね?もう二度と無いチャンスなのに。」
春と同様、ふわりと柔らかい笑みを見せた途端
一花さんの顔は悔しそうな、恥ずかしそうな。
一般人の私とは違って何もかもが綺麗に整っている顔を真っ赤に染めた。
この人の人生なんてどうでもいい。
早く告白して
さっさとフられて
春との関係を終わらせてくれるなら
もうそれでいい。



