「この本、読まれたことありますか?」
「えっ。あ、いえ…ありません」
求めていた本を見つけたのだから、この人との関わりは既に終わったものだと勝手に思っていた。
用が済んでからも話を続ける人なんて滅多にいないのにな、と。
「とても切ないお話なんです」
ニコリ。その人はまた微笑む。
……また、だ。
また不思議な感覚が私の心を埋め尽くす。
「棲む世界の違う2人が巡り会って恋に落ちてしまうんですけど、最後は立場の違いからすれ違って離ればなれに。」
変な感覚を心に秘めながらも、私は目の前でその本の話をするこの人に小さく返事をした。
話の内容を知ってるみたいだし、また読み返したくなって買いに来たのか。そんな人珍しくもないから驚きはしない。
ただ、この変な感覚にはなんだか身に覚えがあった。昔、同じ感覚に陥ったような…って。
不思議な感覚に囚われる私に、目の前のこの人は更に異様な言葉を続ける。
「芸能界にいる人と一般人じゃ、
釣り合わないんだから仕方がないですよね」
ドクンッ
「え……?」
思わずこぼれてしまった声はこの人の冷めきった瞳によって消えていく。
ドクンドクン、と急激に心臓の動くスピードが速まったのは何故だろうか。
この人はただその本の内容を話しているだけなのに。
そう分かってはいるけど、その本の内容と今の私の現状が酷く似ていることから私自身のことを言われたような気がした。
「どうかしましたか?」
だからなのか、この場から早く逃げ出したいと私の身体は無意識にも一歩後ろに後退る。
この人……ずっとそんな目をしてた?
何もかも見透かしているような、
そんな目で私を────…



