春が一花さんの目の前に立つと、彼女はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
「こんなに近いの久しぶり。」
「……………」
一花さんの手が、春の胸元に触れる。
「ずっとずっと会いたかったの。
会いたくて会いたくて、たまらなかった。
だからまたこうやって触れられて……嬉しい。」
そして春の首元に腕を巻き付ける。
私は一体何を見せられているのだろう。
一花さんの目は春だけを映して
私の事なんて視界に入っていないみたいだ。
ここにいるのは春と自分だけだと。
一花さんは今、勝手な世界を作り出している。
(ついさっきまでは…私を殺そうとしたくせに)
狂気の目を私に向けていたくせに。
今じゃ甘い目をして、甘える声で春に縋りよる。
こうなることは分かっていたけど、理解しててもやっぱり腹が立つな。
二人を優先するつもりだった。けど、こういう場面を見せられてはいても立ってもいられなくなって二人の元に向かおうとした。
が。
「───え。」
…………は?
見間違い?
いや、そんなわけない。
視力は良い方だし、ここから歩いて3歩くらいの距離に二人はいる。
だからはっきりとその場面を目の当たりにしたわけで。
「なんで……」
キス した。
キスしてた。
なんで?
心臓からドッと嫌な音がした。
全身の血が引いたみたいに身体が冷たくなる。
開いた口が閉まらない。
視界に映るのは、
春の後ろ姿と
一花さんの幸せそうな顔。
「っ………」
その途端に心が黒く染ってく。
キスを拒否らなかったコイツにではなく、
春に触れた、一花さんに腹が立って仕方がない。
ああ、ヤダな。
醜い考えに異常な想い。
その想いが表に出てしまい、下唇をグッと噛み締めてしまう。
血が滲んでは嫌な味が口内に広がった。



