【続】酔いしれる情緒



「……………」



品出しをしていた手を一旦止めて小さく息を吐く。



私は、何に疲れているんだろう。


仕事に?


少しばかり忙しい時もあったけど、そんなの今まで何度も味わってきたんだから慣れてる。



家事をすることに?


生きるためには必須なことをしているだけであって、苦ではない。



………だとすれば、なに?



「あの~」

「…あっ、はい。」



頭上から聞こえた声に現実へと引き戻される。


話しかけられた。その事実に今は仕事中なのだと自分自身に深く理解させて「何かお探しですか?」としゃがんでいた身体を立ち上がらせた。


見つめる先は、マスクとメガネを身につけ、綺麗に緩く巻かれたロングヘアがとても似合っている女の人。



目が合えばニコリと微笑まれた気がした。



(ん…?)



その途端に感じたのは、とても不思議な感覚。


デジャヴ、というのだろうか。私は一度この人に会っているような気がして仕方がない。


そんな違和感を覚えつつも目の前の女の人は構わず話を進めていくのだから、聞き逃さないように全意識をこの人に向けた。



「この本、どこにありますか?」

「……ああ、それならこちらに」



見せられた携帯画面を数秒眺め、この人が求めている本の場所へと案内する。


狭くもなく広くもない、そんな本屋なのだから数歩も歩けば辿り着いてしまうその場所。本棚の上から二段目の右側にそれはある。



「どうぞ」



手に取って手渡せば、この人は再びニコリと微笑んだ気がした。


そしてまた、不思議な感覚に包まれる私。



どこかで……?

いや、初対面な、ハズ。



マスク越しではあるけれど、例えそうだとしてもモデル並みに綺麗な人だと伝わるくらいなのだから、そんな人のことを過去に一度会っているとしたら忘れるわけがない。



だとしたら、この感覚は一体────…