倒れて目が覚めただけのことなのに春は「良かった、良かった」と何度もその言葉を繰り返す。
大袈裟では?そう思いつつもあるけれど、
「もう二度と会えないんじゃないかと思って、怖かった」
顔は見えない。
春の声は、とても掠れた声だった。
もう二度と会えない、なんて。
私が死んでしまうとでも思ったのだろうか。
(ただの体調不良でここまで心配するなんて…)
この人は本当に私のことが好きなのだろう。
本人が言っていた通り、それはもう狂わしいほどに。
私を抱きすくめる彼にキュッとしがみつくように背に腕を回す。
私も、春のことが好きだ。
こうやって異常な程に心配されていることが酷く嬉しく思う。
例え仕事だとしても、私以外の誰かのことを考える時間なんて無くなってしまえばいいのに。
……そう、例えば。
(春の努力が全て水の泡になれば……)
「あっ……。」
この時、ドクン、と心臓が嫌な音をたてた。
本当の自分を探ってしまったからか、ドクンドクンと鼓動は速さを増している。
(やめて、違う、そうじゃない…!)
彼の積み重ねてきた努力を無駄にすることだけは絶対にダメだ。
そう必死に否定するも、心の片隅にはそうなることを願っている自分がいる。
そうなればきっと、この独占欲も嫉妬心も全てなくなる。
何の心配もなく彼のそばにいられるのだから。
そう、ずっと、春のそばで
これから先もずっと、私は─────
「……大丈夫。大丈夫だから」
無意識に出たそのセリフは
自分自身も分からないままで
一体何に対しての『大丈夫』なのか、
分からないまま何度もその言葉を呟いた。
「大丈夫だよ」
いつから私はこんなにも自分勝手になってしまったのだろう。
春に触れられる今は
何もかもが吹っ切れるくらいに
瞳に映る世界がとても鮮やかに見えるのだ。



