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いつからだろうか
興味が移り変わったのは。
いつからだろうか
求めるものが変わってしまったのは。
いつからだろうか
心が酷く醜いものに染まってしまったのは──。
「………………」
突如、意識がフッと浮上した。
重たい瞼が薄らと開く。
(…あれ、ここ……)
ベッドの上、だ。
そして見慣れた景色。
ここが自分の部屋だと気づくのにそう時間は掛からなかった。
何でここにいるのか分からないまま、私は身体を起き上がらせる。が、
「っ…あ……」
フラッ。目眩がしては、起き上がらせた身体が再びベッドの上へと倒れてしまう。
なんで、目眩が。
分からない。
なんでベッドにいるのかも、分からない。
だって私は、仕事が終わって、走ってここに帰ってきた。この家に帰ってきた。
オートロックのドアを開けて、エレベーターに乗って、この家の中に踏み入れて…
(それから…)
ベッドの上で天井を見上げながら一つ一つ記憶を辿っていく私。
その答えに導くようにか、この部屋のドアがゆっくりと静かに開いた。
「───あ。」
この部屋の中に踏み入れた人は、私の姿を見て微かにだが言葉を漏らす。
そして慌ただしく私の元へと駆け寄ると
「凛!」
「っ、」
私の両頬を挟むようにして手を添える、春。
その顔はどこか焦っているように見えた。
ボトッと何かが床に落ちた音がして
私はその方向に視線を当てるのだけど、
「凛」
それを遮るようにして春の顔が瞳いっぱいに映りこんだ。ちょっ…近い。
「俺が分かる?」
「う、ん…」
「名前、呼んで」
「………春」
すると春は酷く安心した表情を浮かべる。
「良かったー…」
「っ、…」
ギュウ、と強くはないが緩くもないその力。
私をその胸に抱きとめる春の鼓動は少し速かった。
(……嗚呼、そうだ、)
このぬくもりを感じては、辿っていた記憶が鮮明に蘇った。
この家に踏み入れると、すぐそこには春がいて。
私は今日一日ずっと求めていたモノが早く欲しくて、躊躇いもなく彼に触れた。
通話相手にさえ嫉妬し、意地悪な彼に行かないでと懇願して、甘くて深いキスを交じり合わせたのだ。
「ごめん。体調悪いのを知らずに求めすぎた」
そう。彼に求められすぎた。
息付く暇もなく求められ、呼吸困難になりつつあった。
きっとそれも倒れた理由の1つだろうけど、1番大きい理由は他にある気がする。
なんだろう、思い出せない。
ただ、今はこのぬくもりが心地いいということだけが明確に理解できた。



