プルルルルッ…
喉まで出かかった言葉は突然この空間に鳴り響いた着信音によって出番を失ってしまう。
私の?…と思う前に、春が溜め息をついてズボンのポケットから携帯を取り出した。
数秒ほど画面を眺め、
「空気の読めないヤツだなぁ…」
ボソッとそう呟いてから私に視線を当てる。
ニコリ。微笑んだかと思えば
「っ、!」
チュッ。
一瞬だけど、軽く唇にキスを落とされた。
その感覚を秒で忘れてしまうくらい、一瞬で。
「ちょっと待ってて。」
「っ……うん…」
頷く私。
密着する身体。
ドキドキと胸が高鳴っているのは私だけ。
だって春は平然とした顔で通話を始めたのだから。
(ここにいていいのかな…)
話の内容って、あまり聞かない方がいいよね?
(中で待っておこう)
スルリと春の腰に回していた腕の力を緩める。…が。春の腕の力は緩まない。
片手は携帯を耳にあてていて、もう片方の腕は私の腰をしっかりと捕らえて自身の身体に引き寄せている。
気を遣ってしたつもりの行動は何故か春によって食い止められてしまった。
(…ここにいろってこと?)
腰にあった腕は今じゃ肩に回されて、ギュッとより深く引き寄せられた身体は春の心臓の音が聞こえる位置まで引き寄せる。
そのため、心臓の音以外にも聞こえる音がもう1つ。
『今から呑みに来れない?』
「っ、」
この声……女の人、だ。
恐る恐ると顔を上げる。
見つめる先は、春の顔。
酷く整った綺麗なその顔だ。
" 俺、結構モテるよ "
過去に春自身が言っていたことを思い出す。
その言葉を否定するつもりはない。性格はまあ…難ありではあるけれど、絶対モテるに決まってる顔をしているし。
そしてコイツはあっちの世界の人間なのだから、この通話先の相手だってその世界の人だろう。
女優?それともモデルの人?それとも…



