「では姫様、これから僕のことは『ランハート』と気軽にお呼び捨てください。色々と戸惑われることもあるでしょうから、僕が相談相手になりましょう。
――――――――それとも、他にもう候補が?」


 ランハートは騎士がするみたいに恭しくわたしの手を取り、わたしとおじいちゃんとを交互に見つめる。


「いや、おまえがトップバッターだ」


 訳の分からないわたしをそのままに、おじいちゃんがそんなことを言った。すると、ランハートはニヤリと口角を上げ、そのままわたしの手の甲に口づける。


「なっ……! へっ…………⁉」

「それはそれは――――この上なく光栄なことです」


 そう言ってランハートは立ち上がると、ゆっくりと恭しく頭を下げた。


「陛下、今日はこれで失礼いたします。
姫様――――またすぐにお会いしましょう」


 ランハートの流し目にドギマギしつつ、わたしはおじいちゃんと一緒に彼の後姿を見送る。ややしておじいちゃんはふ、と小さく笑った。


「ランハートはさすが……察しが良いな」

「え、っと…………何がですか?」


 首を傾げつつ、躊躇いがちに尋ねる。けれどおじいちゃんはほんのりと目を細めつつ、何も言わなかった。