「アダルフォさん、ライラのことを宜しく頼むよ」


 お父さんがそう言って深々と頭を下げる。アダルフォは穏やかに微笑むと、力強く頷いた。


「ありがとうね、アダルフォ」


 わたしの行動に振り回されてばかりだっていうのに、文句ひとつ言わず、アダルフォは何処にでも付いてきてくれる。


「礼には及びません」


 そう言ってアダルフォは膝を折る。
 おじいちゃんに反発して城を出た時、アダルフォは『主人はわたし』だって、ハッキリそう言ってくれた。そんな彼の心意気に、わたしは応えていかなきゃならない。


「それじゃ、そろそろ行くね」


 そう言って玄関の扉を開ける。すぐ側に、おじいちゃんが用意してくれた馬車が停まっていた。ほんの少しの名残惜しさを胸に、大きく息を吸い込む。


「ライラ!」


 と、その時、背後から勢いよく呼び止められた。エメットだ。


「エメット! 見送りに来てくれたのね」

「いや……その…………」


 エメットはもじもじしつつ、頬をほんのりと赤らめる。その視線は、さり気なくアダルフォの方へと向けられていた。


「何よ、わたしよりもアダルフォと離れる方が嫌なわけ?」

「そうじゃなくて! そうじゃないんだけどさ……なんていうか、その」

「何? 人の門出の邪魔してまで言わなきゃいけないことなの?」


 竹を割ったような性格の彼にしては歯切れが悪い。じれったく思いつつ、にじり寄る。


「その! どっ、どうやったら俺も、アダルフォさんみたいに騎士になれますか!?」

「…………ええっ!?」


 それは思わぬセリフだった。面食らったわたしを余所に、アダルフォは平然とした様子で、目を瞬く。