「助かった、傘」


「……うん」



四階、私たちの部屋のある階。

角部屋の私とその隣の千輝くんが向き合って、最初に口を開いたのは彼の方だった。


向かい合って初めて気がつく。千輝くんの右肩が、濡れていることに。
私の左肩は多少濡れてはいるものの、千輝くんほどではない。



答えは明白。

……本当に、どこまで優しいの。何も言わなかった。
助かった、だなんて傘で全然雨を防げていないのに。


決意がすぐ、揺らぎそうになる。ゆらゆらと意思の弱い私はすぐに流れされてしまいそうになる。


だけど、ダメ。だからこそだよ。この優しさに甘えてはいけないから。



「……ねえ、」