甘く、溶ける、君に。




「……ていうかさ、女子たち、他のターゲット見つけた?」



話題を変えた絵凪につられて、同じように教室のドア付近や廊下にたまっていた女子たちに視線を移す。


確かにさっきまで、こちらを睨むように見ていた女子たちはもう私たちの方なんて見ていなくて、別の方向を向いてまた別の話題で盛り上がっている。


噂話大好きな女子たちの興味は、一瞬で他に移っていく。私としてはありがたいけども。



「何かあったのかなー?聞き耳立ててこよっと」



自由人な絵凪は、そのままスキップする勢いで廊下の方へ向かっていった。


残された、私と田邊。

田邊はさっきと変わらない体勢のまま私の方を見つめていて。



「……何?」



何が言いたげに口角を少しあげてるけど、何も言わないまま。



「んー……別に?今日も可愛いなって思ってただけ」



嘘みたいで本物みたいな田邊の言葉には何も返さなかった。

私も少しだけ女子たちの会話に聞き耳を立てようとするけど、ちょうど降ってきた雨の音で、全然聞こえなかった。