「ごめんね、昔近くに住んでた人だったから、びっくりしちゃって」
「何か嫌な思い出とかあったの?珍しいじゃん、遥乃があんなに固まるの」
「ううん、嫌な思い出なんて何もない。むしろ、あの頃は楽しくて……浸っちゃっただけ、ごめんね」
それは本当。千輝くんとの間に嫌な思い出なんて一つもなくて、今まで生きてきた中でもキラキラ輝いてるほう。
だからこそ今、キラキラとは程遠い錆びた私が、何も変わらない千輝くんとは会いたくなかった。
会いたくなかったのに、千輝くんが私を覚えていなかったり、私に気づいていなかったりするのは、寂しい。
感情がいろいろ入り混じってよくわからない。
千輝くんには会いたかったけど、会いたくなかった。
田邊はそれ以上、何も聞いてくることはしなかった。



