前を向き続けていた田邊がこちらを向いて。
そんなふうに言うけれど私はどう返せばいいのかわからなくて。本当に慣れてないの、こういうの。
「どう? 今日の俺」
「……悪くはない」
「遥乃ちゃん、素直じゃなさすぎ」
そう言って小さく笑って。
照れくさくて本当のことなんか言えないから、ごまかさせて。
普段から思っていないわけじゃないけど、今日の田邊はかっこいいと思うよ。
でもそんなこと言えないから、言わずにいさせて。
きっと、田邊にはバレてるだろうけどね。
きっと今日一日、私のペースで進んでいくことはない。
私が田邊の鉄壁を崩して惑わせることなんて、絶対できない。
……正直言って。
ドキドキして仕方ないよ。
でも、このドキドキが恋かと言われたら……それはきっと、違う感情。
繋がれた手、帯びる熱、梅雨の合間の太陽も相まって、どうしようもなくあついよ。



