夏が、近づいてる。
だけど夜、この時間はひんやりしていて、けどちょうどよくて、時折吹く風が気持ちいい。
「……遥乃?」
隣は薄い板のようなもので仕切られている。
声も音も、全部聞こえてしまうくらい申し訳程度の薄い板。
部屋の中の薄い壁は細かく音は聞こえないようになってるから、全然違う。私が出てきたことなんてすぐにわかるくらい。
聞こえる千輝くんの声に、何故だか泣きたくなってしまった。
「……うん」
「遥乃、さっきから"うん"しか言わない」
「ごめん、」
「別にいいよ、ありがと、来てくれて」
優しく穏やかな声が、私だけに届く。
隔てられた板。こんなのすぐに壊してしまいたい。



