甘く、溶ける、君に。



「……っ」



見上げてちらりと見えた千輝くんの顔が、赤く見えて。

自分の口元を手で押さえて、赤い顔をして。


そんなの、反則だ。

赤くなるなんて、ずるい。かくいう私も赤くなってる。ダメだ。千輝くんに言ってる場合じゃない。



その顔、ずっと見てたら本当に、本当に本格的にきみにのめり込んで、溺れて溶けて、戻れなくなってしまうから。


そうなる前に、振り切るようにして。頭の中の千輝くんを消すようにして。



「……ご、ごめんね……っ」



いろいろごめんなさい、ごめんね。

これは誰に対して謝ったの? 私に対して? 千輝くんに対して?


自分でももうわからないけど。
とにかくこの場にいては危険。

戻れないところまで、千輝くんは入り込んできている。


ダメ、なんで? 千輝くんはなんでダメ?



……それを考えることが、一番ダメ。



だから逃げた。走った。空き教室から逃げた。


千輝くんから、逃げた。自分の気持ちと向き合うことから、逃げた。