「……遥乃」



なんだかんだ私は、まだこの人に名前を呼ばれることに慣れていない。

少なからずどきっとしてしまって、平然と、自然とその後の言葉を待つことができるのは、いつになるだろうか。


私の名前を呼ぶ声、その主は千輝くんで______彼は続けて口を動かした。



「ちょうど遥乃のこと探してた」



探してたって、こんな朝から私に用でもあるの?


喜び、怒り、悲しみ、どの感情も表情から読み取れないから、何を考えて探してた、のか全然わからない。


わからないから特に口にも出さないまま、千輝くんは近くの教室を指差す。



「こういう空き教室って普段使ってる?」


「多分、使ってないと思う」


「じゃあ喋ろ?」