「……言いたいことがあるなら言ってよ」
今まででいちばん弱々しい夏奈の声が、夏の空気にとける。
また、セミの大合唱だけが響く。
……言いたいこと。
そんなの今さらだ。
「わたしは、日和の思ってることが知りたいよ」
いつも眩しい笑顔。
それが今は、夕立のような陰りと不穏さを感じた。
ずっと一緒にいた。
夏奈の言いたいことはわかってる。
俺はいつも言葉足らずだ。
言いたくないから。変えたくないから。変わりたくないから。
それでも、夏奈はわかっている。
俺の思っていることも、感じていることも。
言わなくても伝わっている。
「ねぇ、日和」
それなのに、俺に言わせようとする。
言葉を欲している。
風で揺れたやわらかい木漏れ日が、ゆらゆらと夏奈を照らす。



