【短】夏のせい、君のせい。



「懐かしいよね。でも思ったより残ってるでしょ」

「そうだね」



どこに作るか下見から始めた。

子どもなりに、雨風にあまり当たらなくて土砂崩れで潰れなさそうなところ、とこだわって場所選びをした。

そのかいあってか、秘密基地があった場所と一目見ればわかるくらいには残っている。



「俺たちすごいね」

「うん、さすがわたしたち」



にこっと微笑んだ夏奈がリュックからレジャーシートを取り出す。
準備がいい。

元々来る予定だったのかもしれない。


そんなことを考えていると、夏奈はレジャーシートに座って隣をトントンと叩いている。

言葉はなくてもわかりやすい促し。俺はそっと夏奈の隣に腰を下ろした。

肩が触れる。

夏奈は今、隣にいる。

今、誰よりもいちばん近くにいる。

それなのに、この距離がすごく遠く感じる。

来週になれば、夏奈はもういない。


木漏れ日が照らす空間。

ここだけ、現実と切り離されているみたいだ。

セミの大合唱だけがこの空間に響く。
無駄に立体音響並みの臨場感まである演出付きで。



「ここに来るまで、たくさん思い出したよ」



やっとセミ以外の音が耳に届く。

優しくて、どこか寂しい夏奈の声。

顔を横に向ければ、三角座りをして膝に顎を埋めてまっすぐに前を見ていた。

そんな夏奈の横顔はやっぱりきれいで、目が離せない。



「どこを見ても、なにを見ても、日和との思い出がよみがえってきた」

「うん」


俺も同じだよ。
だけど、言わない。言えない。言いたくない。