悪原くんは堕ちてくれない


私も、ある意味待ち合わせだからね。



教室に来てもらってるだけだけど、この効果は抜群だと思う。



今もほら、私たちのことをチラチラ見てるギャラリーがいる。



「ちんたら歩くなよ。さっさと帰りてぇ」



ボソッと聞こえた言葉も気にしない気にしない。



「ねー悪原くん。1個お願いごと聞いてくれる…?」



ここは廊下だってこと、忘れてないでしょ?



「…なに?」



口角きゅっと上がったけれど、目はぴくりとも動かない。



怖ーい顔しないでよね、って言ってやりたいけど、ここは我慢。



「芽梨、傘忘れちゃったの。だから…最寄り駅まで一緒に帰ってくれる?」



上目遣いでうるうるおめめ。



どう?これ、完璧でしょ。



普通ならここでこの世の全男子が落ちるとこ。



だけど、悪原くんの場合は眉間にぎゅっとしわが寄る。



「…朝は持ってきたつってなかったか?」



「りっちゃんが忘れちゃったらしくてね?彼氏と駅で待ち合わせらしいから、貸してあげたの。悪原くんも持ってきてるって言ってたから、良いかな〜と思って」



「はぁ…?お前───」



「ここ、どこかわかってるよね?悪原くん♡」



「…ちっ」



私だけに聞こえるくらいの小さな舌打ち。



だけどそれは、敗北の宣言。



私、討ち取ったり。