低く落ち着いた、大人びていながらどこか無邪気な、綺麗な声をした人だった。

 時本はな。

 男を見る目がある人。

 その白い肌が見えた。なめらかで、女性らしいどこか甘い香りのするやわらかそうな肌は、白い花のようだった。

 話してみれば、どんな顔をした人なのだろうと気になった。どんな目でどんな世界を見て、どんな鼻でどんなにおいを嗅ぎ、どんな唇で、あの魅惑的な声を発しているのだろうと。

 考えるだけで胸の奥がきゅっとなった。その(うず)きはとても甘美なものじゃない。安心していい、大丈夫だからという葉月の声が、刺さったまま熱を持ち、胸の奥を焼く。

 男を見る目がある。そう断言しながら、葉月はどうして大丈夫だなんていえたのだろう。あるいは挑戦だったのかもしれないと一度は考えたけれども、口調からそうとは思えなかった。

 俺には——あるいは葉月にも——変なところで格好つけたり茶化したりする悪癖がある。自覚はある。そのせいで話がなんとも遠回しな言葉でされ、こうして相手の本心が見えないことがたまにある。

 葉月は、はなを好きであることを認めた。その上で、彼女を好きではないともいった。今は好きではないということなのだろうか。

 それにしても、俺が安心していい理由はなんだろう。大丈夫だから、と葉月はいった。なぜ大丈夫なのだろう。なにが大丈夫なのだろう。

 答えのでないまま、縁側の照明から外の方へ、ごろりと体の向きを変える。

 しかし、一番の問題は彼女自身の気持ちだ。

これは俺と葉月がはなに惹かれているというだけのことで——さらにいってしまえば、俺のこれは恋情であるのかも疑わしい——彼女に惹かれる人はほかにいくらでもいるだろうし、彼女自身が魅力を感じる相手というのは皆目見当がつかない。

声しか聞こえなくても魅力的だと感じさせるような人だ。彼女の魅力に鈍感な人に、かえって惹かれるかもしれない。

 夜に溶ける夕暮れをまぶたの中へ閉じこめて、密かに苦笑する。

 さあ葉月、おまえはなにを思って大丈夫だなんていったんだい?