「なるほどね」と水月はつぶやいた。
「はなが天女だったんだ」と。
「天女?」
「家族会議の必要がありそうだね」
「家族会議?」
「きょうだい会議っていうべきかな。ちょっと訊かなきゃいけないことができた」
「葉月に?」
水月はそれにはなにも答えず、こちらを向いた。
「はな、きみはずいぶんもてるね」
「ええ、なに……?」
「葉月のことは嫌い?」
「嫌い、……てわけでもないけど……」
いくらわたしだって、罪も害もない人にあなたの弟が気に入らないとはいえない。
「葉月はいつもあんな調子?」
「……今日は、ちょっと……」
「ひどいか」と水月は静かに苦笑する。
「気になるなら直接訊いてみなよ。あの先生にはいつもあんな失礼な態度をとるのかって」
「ちょっと考えればわかるはずなのにね」と水月はまた苦く笑った。
なにが、と訊き返したいけれど、実際に口にだせば感じ悪く聞こえるかもしれないと思って飲みこみ、水月を見つめた。それを、彼がどのようにして、どんなふうに感じとるのかはわからない。想像もできない。
「葉月のことだよ。あんな調子じゃ、女の子は見てくれないって」
「そう? 嫌ってほど目に入ってくるけど。無視してるだけだよ」
「どうして無視するの?」
今度はわたしが苦笑した。「わたしは一体なにを試されてるの?」
「はなのことが知りたいんだよ」
わたしは「変わってるね」といって、水月の、月夜を淡く儚く彩る花のようなかおばせを見つめた。
「愛すは自由、憎むは束縛、過剰な規則。かつ丼さえ食べてればご機嫌なAB型。五月二十六日、双子座の加護のもと、時本家の長女に就任」
わたしは、どう?と尋ねるように肩をすくめ、笑ってみた。
「ところで、水月って、綺麗だけどちょっと変わった名前だよね。由来はあるの?」
「言葉のままだよ。俺が生まれたとき、みのもに映る月が印象的だったそうで」
「湖とか、海の見える病院だったの?」
「いや、数日雨が続いたんだそうだよ。それがやんで、水たまりに満月がぽっかり浮かんでたんだ、と」
なるほど、彼ほどの人にもなると、生まれた瞬間さえ、名前の由来さえ美しいらしい。
「はなは? 由来とかあるの?」
「さあ……小学校の頃になんか、そういうのあったよね。なんていってたかなあ……」
記憶の深いところまで探しにいくと、ふとそれらしいものを見つけた。
「ああ、『お花のように華やかで可憐な人になりますように』って。だからひらがななんだ。お花の方でもなく、華やかの方でもなく」
けれどちょっと気になるのは、きらびやかで美しく、かつ、かわいらしくて大切にしたいようなというのは、なかなかハードな注文だと思うのだ。
わたしはもしかしたら、無意識にその注文に逆らっているのかもしれない。そうでなければ、親しくなった人みんなが決まって『最初、怖い人——もっと冷たい人——なのかと思った』なんていったりしないはずだもの。
華やかさや美しさは、ときには厳めしさを感じさせたりもするけれど、名前にこめられた注文通り、可憐さを持っていたなら、もう少し第一印象もやわらかくなるはずだもの。
「ぴったりの名前だね」と水月はいった。わたしの心を読めとはいわないけれど、なかなか意地悪な人だ。
「そっちがからかう気でも、こっちはからかわれないよ」
水月は一瞬驚いたような顔をして、それから愉快そうに笑った。
「こっちにからかう気がないからからかわれないんだよ」
「それがからかってるっていうの」といい返しながら、わたしは自分がどこかで喜んでいるのを感じた。
「はなが天女だったんだ」と。
「天女?」
「家族会議の必要がありそうだね」
「家族会議?」
「きょうだい会議っていうべきかな。ちょっと訊かなきゃいけないことができた」
「葉月に?」
水月はそれにはなにも答えず、こちらを向いた。
「はな、きみはずいぶんもてるね」
「ええ、なに……?」
「葉月のことは嫌い?」
「嫌い、……てわけでもないけど……」
いくらわたしだって、罪も害もない人にあなたの弟が気に入らないとはいえない。
「葉月はいつもあんな調子?」
「……今日は、ちょっと……」
「ひどいか」と水月は静かに苦笑する。
「気になるなら直接訊いてみなよ。あの先生にはいつもあんな失礼な態度をとるのかって」
「ちょっと考えればわかるはずなのにね」と水月はまた苦く笑った。
なにが、と訊き返したいけれど、実際に口にだせば感じ悪く聞こえるかもしれないと思って飲みこみ、水月を見つめた。それを、彼がどのようにして、どんなふうに感じとるのかはわからない。想像もできない。
「葉月のことだよ。あんな調子じゃ、女の子は見てくれないって」
「そう? 嫌ってほど目に入ってくるけど。無視してるだけだよ」
「どうして無視するの?」
今度はわたしが苦笑した。「わたしは一体なにを試されてるの?」
「はなのことが知りたいんだよ」
わたしは「変わってるね」といって、水月の、月夜を淡く儚く彩る花のようなかおばせを見つめた。
「愛すは自由、憎むは束縛、過剰な規則。かつ丼さえ食べてればご機嫌なAB型。五月二十六日、双子座の加護のもと、時本家の長女に就任」
わたしは、どう?と尋ねるように肩をすくめ、笑ってみた。
「ところで、水月って、綺麗だけどちょっと変わった名前だよね。由来はあるの?」
「言葉のままだよ。俺が生まれたとき、みのもに映る月が印象的だったそうで」
「湖とか、海の見える病院だったの?」
「いや、数日雨が続いたんだそうだよ。それがやんで、水たまりに満月がぽっかり浮かんでたんだ、と」
なるほど、彼ほどの人にもなると、生まれた瞬間さえ、名前の由来さえ美しいらしい。
「はなは? 由来とかあるの?」
「さあ……小学校の頃になんか、そういうのあったよね。なんていってたかなあ……」
記憶の深いところまで探しにいくと、ふとそれらしいものを見つけた。
「ああ、『お花のように華やかで可憐な人になりますように』って。だからひらがななんだ。お花の方でもなく、華やかの方でもなく」
けれどちょっと気になるのは、きらびやかで美しく、かつ、かわいらしくて大切にしたいようなというのは、なかなかハードな注文だと思うのだ。
わたしはもしかしたら、無意識にその注文に逆らっているのかもしれない。そうでなければ、親しくなった人みんなが決まって『最初、怖い人——もっと冷たい人——なのかと思った』なんていったりしないはずだもの。
華やかさや美しさは、ときには厳めしさを感じさせたりもするけれど、名前にこめられた注文通り、可憐さを持っていたなら、もう少し第一印象もやわらかくなるはずだもの。
「ぴったりの名前だね」と水月はいった。わたしの心を読めとはいわないけれど、なかなか意地悪な人だ。
「そっちがからかう気でも、こっちはからかわれないよ」
水月は一瞬驚いたような顔をして、それから愉快そうに笑った。
「こっちにからかう気がないからからかわれないんだよ」
「それがからかってるっていうの」といい返しながら、わたしは自分がどこかで喜んでいるのを感じた。



