ぽつぽつと話しているうちに、入る道をひとつ間違えてしまった。

 「こんな方をいくでやんすか?」といわれたけれど、わたしは「そうなのよ」と答えた。実際、迷ったわけではない。この道で迷うのはすでに経験している。この道から見知った道に抜けだすことも。

 冷静に道を進むと、左手に林が見えるようになった。

 「すごい。こんなところ、きたことないよ」

 「わたしも三回目くらいかな」

 「道間違えてるじゃん」とてらちゃんは笑った。

 「間違えたけど迷ってるわけじゃないよ」とわたしも笑う。

 ふと、てらちゃんが「かわいい」と声をあげた。

 左隣を歩くてらちゃんの横顔を見ると、「赤い実がなってる」と背の低い木を指で示した。ちらちらと白いかわいらしい花も見られる。

 「あれ、食べられるよ」

 「え?」

 「草いちごっていうんだって。近所に野草に詳しい人がいてね、前にこの道で迷ったときに、かわいい実だなと思っていくつか採ったんだよ」

 「そんなことしていいの?」と笑うてらちゃんに、わたしはただ人差し指を立てて自分の唇の前にやった。

 「で、それを見せてみたら、草いちごっていう、食べられるものだってわかったの」

 わたしはちょっとその木のそばに寄って、二粒だけちょうだいした。

 わたしは実をてらちゃんに渡し、トートバッグに入れたまま開栓もしていない炭酸水のペットボトルを開けた。プシュッと軽快な音が弾ける。

 「え、食べるでやんすか?」

 「結構おいしいんだよ。甘酸っぱくて」

 「へえ」と興味を持ち始めたてらちゃんの目を見てみると、てらちゃんは目を合わせて頷いた。

 てらちゃんの手にのった木の実を洗い、一粒ずつ口に入れた。「ちょっとしゅわしゅわする」とてらちゃんが困ったように笑う。

「ごめん」といって笑ったわたしも、てらちゃんほどかわいらしくはなくとも同じような笑い方をしているだろう。

 そっと噛むと、しばらく前に味わった甘酸っぱさが広がった。これは前回食べたものよりも甘い。

 「あ、でもおいしい」

 「でしょ」

 「苗とか売ってないのかな」

 「ええ、それなら普通のいちごでいいよ」と返すと、てらちゃんは「ああそうか」とちょっと恥ずかしそうに笑った。